有名な論文ですが、クロミッドは排卵率は上げるが、妊娠率は下げる。これは事実だと思います。クロミッド周期体外受精を約25年以上(1万週期以上)続けて行っておりますが、当院では一般不妊治療として月経周期が正調な方にクロミッド投与は行っていません。排卵障害がある方には躊躇なく投与しております。クロミッド周期で性交後試験が良好であれば、タイミング療法を継続しますが、子宮頚管粘液が少なくなる方が割と多いため性交後試験不良になり易くそう言う場合は人工授精を行なっております。子宮内膜の菲薄化を心配される方も多いと思いますが、自然周期で内膜が十分の方や木の葉様陰影を認める方はほぼ問題なしと思います。
私がクロミッド刺激体外受精にこだわり続けて来たのには、理由があります。まずはクロミッドの紹介が必要と思います。クロミッドは50年くらい前に排卵誘発財として使用され薬理作用として卵胞ホルモンを低下させ、その反動で卵胞を育てると言われております。但し内服開始1〜2日目は確かに卵胞ホルモンは低下するのですが、3日目以降は卵胞が育ち卵胞ホルモンは逆に上昇を始めます。その後も卵胞は育ち卵胞ホルモンは自然排卵の数倍になります。大変不思議な薬です。古い薬なので沢山の研究発表はあるのですが、1番有力な学説は、クロミッドは卵胞ホルモンと結合しその結合体が脳視床下部に卵胞ホルモンの欠乏を錯覚させGnRH(*視床下部性ホルモン)の分泌を促進し、脳下垂体に働きかけFSHとLHを上昇させ卵巣を刺激する。と言うことらしいですが、その結合体は見つかっておらず、クロミッドを男性に投与しても脳下垂体ホルモンや男性ホルモンを上昇させているので本当かどうかも不明です。
ではどうして私がクロミッド体外受精にこだわり続けているかと言うと卵胞を育てているのはFSH(卵胞刺激ホルモン)が主体ではなくLHパルス(*黄体化ホルモンの変動による刺激)だからです。hMG製剤(FSH製剤を含む)は注射を打った時に急上昇しその後は低下、翌日打ったらまた上昇と言う1日1回だけの刺激になりますが、自然周期やクロミッド周期は60〜90分に1回約1日20回程度の細かい刺激です。つまり卵巣を刺激する直接刺激するのでは無く、脳視床下部からのきめ細かいLHパルスによる刺激で卵胞(卵子)を刺激する事になります。卵巣過刺激症候群に至る危険性は低く生態系のリズムを崩す事も少ないのです。卵胞数は少ないが受精卵の質がいいと考えています。
良いことは多いのですが、体外受精となるとクロミッド体外受精を行っている施設は極めて少ないのが現状で多くの施設はロングorショートプロトコールを代表とするLHパルスを何らかの方法で止めた上でhMG製剤をがんがん打って次周期は刺激し過ぎたので休憩しましょう〜が大勢です。理由は至って簡単で扱いが難しいからです。卵胞1個でよくやるね〜と複数の不妊治療専門の先生から言われて事があります。卵胞数は少なくLHパルスを止めない体外受精を1万例以上行い、ホームページの写真の見て貰えば分かると思いますが、取り扱いが難しいクロミッド体外受精を続けております。クロミッドは大変たくさん処方しておりますが、1錠約100円の薬は大活躍しております。但し冒頭で触れましたが、排卵障害の無い方には基本的に処方しておりません。性交後試験を行わない施設は是非ともクロミッド処方時には性交後試験を行なって貰いたいと思います。
次回は当院のクロミッド採卵について解説する予定ですが、詳細な説明は企業秘密になるのでわかり易く簡潔に説明いたいと思います。 *脳の中枢=視床から大変微量なホルモンが脳下垂体を刺激(微量すぎてほぼ計測不能) *黄体化ホルモン=LH よくこれを黄体ホルモン(P4)と間違える人が多いです。化がついているかの違いですが、ホルモンとしては別次元のものです。